土星が地球に衝突するとどうなるのか?

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vaience

太陽からおよそ14億km離れた場所に、土星は静かに回っています。

土星の特徴といえば、皆さんご存知の美しいリング。また、比重が水よりも小さいため、超巨大な水槽を用意することができれば、土星を水に浮かばせることができることは有名でしょう。

そのせいでしょうか。同じガス惑星で、太陽系最大の惑星である木星と比べると、不気味な印象を受けることが少ない気もします。しかし、土星も木星と同様、立派なガス惑星。落下した経験のある皆さんであれば、そのエネルギーがいかに強大かをご存知でしょう。

ではもし、土星が地球に衝突すると何が起こるのでしょう。地球は無事でいられるのでしょうか?土星VS地球どちらが勝つのでしょうか?

今回は土星が地球に衝突するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。

太陽系にある8つの惑星は、安定してその軌道を保っているように見えます。数千年前の人類が肉眼で見える5つの惑星に名前を付けてから、惑星たちは太陽の重力に従い、規律よく今日(こんにち)まで公転し続けてきました。

そしてこれからも、数十万年という長きに渡って安定していることでしょう。ですが、さらに長い期間となると、同じ未来が待っているとは限りません。

鍵を握るのは、木星です。太陽系最大の惑星、木星の重力は強大。とはいえ、それ以上に惑星同士の距離は膨大です。

いくら木星の重力が強大といっても、距離が大きいため他の惑星に及ぼす力はごくわずかです。しかし、このごくわずかな力が同じ方向に、何億年もの間に繰り返し与えられたら、どうでしょうか。

遠い将来、水星の近日点、すなわち水星と太陽と最も近くなる位置で水星が繰り返し木星の重力に引っ張られるようになる確率が、わずかながら存在するのです。

そうなると、水星の公転軌道の形が現在よりも楕円形に引っ張られていきます。近日点がより太陽に近く。反対に、水星と太陽と最も近くなる位置、遠日点はより太陽から遠く。

この遠日点がどんどん太陽から遠ざかり、やがて金星軌道にまで到達することで、水星と金星の軌道が干渉するようになり、太陽系の内惑星は大混乱に陥るのです。こうなってしまうと、水星が太陽に向かって落下したり、金星や地球に衝突したりすることが考えられるでしょう。

ある研究によると、このような悲惨な未来が起きる確率は、今後30億年〜40億年でおよそ1%。太陽が寿命を迎える頃には、太陽系の様子は様変わりしている可能性があるのです。

では、今回の主役である土星はどうでしょうか。太陽系の全質量のうち、そのほとんどの約99.86%が太陽からなります。太陽以外の残りの質量のうち、約70%が木星、約20%が土星で、次に重い惑星である海王星は3.5%ほど。

つまり、土星は木星を除く他のすべての惑星より圧倒的に重いため、他の惑星の重力の影響を受けて軌道が乱される可能性は、非常に低いです。そのため、もし土星の軌道を乱して地球に衝突させるとすると、膨大なエネルギーが必要となります。

とはいえ、バイエンスでは以前、地球上に豆粒大のブラックホールを発生させています。ブラックホール発生に必要なエネルギーと比べると、この程度は朝飯前。

おっと、土星の公転が止まり、太陽に向かって落ち始めたようです。軌道を調整して、丁度地球に衝突する軌道にしておきましょう。何が起きるのでしょうか。

最初は、特に何も変わりません。土星と地球の距離は、最も近いところでおよそ12億km。太陽と地球の距離の8倍ほどあります。この距離では、いくら土星と言えども、多少近づいたところで地球への影響はほぼ無視できるでしょう。

しかし、地球上の様々な場所に、夜空を観測し続けている科学者たちが存在しています。彼らはすぐに異変に気付き、軌道の計算を行い、世界に向けて遅すぎる警鐘を鳴らすでしょう。

そのような異常事態に、全世界が瞬く間にパニックに陥ります。土星が地球に衝突するとなると、地球上に逃げ場はありません。

宇宙や他の惑星に逃げようとも、現在の人類は、地球以外では短期間しか生きられません。衝突まであと数年はありますが、できることは、ほぼありません。実際に土星が衝突するはるか前に、地球は絶望に包まれることとなります。

人類が絶望に打ちひしがれている間に、土星はどんどんと接近します。木星軌道を超え、火星と木星の間に広がる小惑星帯に入ると、土星のリングに異変が生じます。土星のリングは、大部分が細かい氷の結晶でできており、その氷が蒸発を始めます。

太陽からおよそ4億5千万km、太陽と地球の距離の約3倍より太陽に近づくと、太陽からの熱により氷が直接水蒸気に変わるようになります。つまり、あの美しいリングが崩壊を始めるのです。

土星自体には影響はありませんが、土星のリングは、ガスのように曇ったものに変わるでしょう。その間(かん)にも、土星は接近を続けます。

火星軌道を過ぎたあたり、地球からの距離がおよそ7500万kmにもなると、肉眼でもはっきりと土星の形を確認できるようになるでしょう。この時点で、土星は満月よりも明るく見えます。

その数か月後、地球と土星の距離が1000万kmを下回ると、土星の重力が目に見える形で地球に影響を及ぼすようになります。現在の地球では、月と太陽の重力の影響で海が満潮と干潮を繰り返しています。

通常では太陽と月だけがその影響を与えていますが、接近中の土星も徐々にこの影響を与えるようになります。地球との距離が700万kmになると、月による影響と土星による影響が同じくらいになります。

世界中で、満潮と干潮の差が激しくなるでしょう。それでも、土星はさらに近づいてきます。地球との距離が100万kmの時点で、土星の重力の影響は月による影響の約400倍。

ここまで重力の影響が大きくなると、全世界で津波が発生し、すべてを飲み込むことでしょう。距離が40万km、つまり月と同じくらいの距離にもなると、水だけではなく地球全体にも影響を及ぼします。

水と同じように、土星に近い側の岩石には重力が強く働き、遠い側の岩石には重力が弱く働きます。土星の重力により、地球全体が変形してしまうのです。

これにより、地上の火山は一斉に噴火をはじめ、断層が引き裂かれます。この時点で、地球上はカオス。生命の絶命は避けられないでしょう。

距離がおよそ13万kmになると、地球自体が崩壊を始めます。土星に近い側と遠い側の重力の差が、地球の重力より大きくなるのです。そのような状態になる距離をロッシュ限界と呼び、これより内側では、大きい天体は存在できません。

重力により少しずつ引き裂かれ、蒸発した岩石が土星を回り始めます。それは、地球の全質量、およそ60垓トンがすべてなくなるまで続きます。地球は、土星に接触する前に引き裂かれ、消滅することになります。

残されたのは、一見何も変わらない土星と、かつて地球を構成していた無数の岩石によるリング。およそ45億年の間歴史を刻んできた私たちの母なる星が、あっさりとなくなってしまいました。

ですが、悲劇はこれで終わりではありません。地球を破壊した土星ですが、まだ移動を続けています。

次の目標値は、太陽。少し前に地球が体験したことを、今度は土星が味わうことになるでしょう。かつて地球だったリングを引き連れ、破滅の未来へと突き進んでいく土星。重力の恐ろしさを、土星はまだ知りません。