2リットルの水銀を一気飲みするとどうなるのか?

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vaience

水銀と言うと、社会の授業で習った水俣病を思い出すかも知れません。水俣病は工場の排水による公害病で、メチル水銀という水銀の化合物を摂取することによって発生する神経疾患です。

純粋な金属水銀は銀色の液体ですが、ほとんど体内に吸収されないため、少量であれば誤飲しても人体にあまり影響はないとされています。それでは、金属水銀を大量に飲み干した場合、人体には何が起こるのでしょうか?

今回は2リットルの水銀を一気飲みするとどうなるのか、についてご紹介したいと思います。

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水銀はその名の通り「水のような銀色の金属」で、常温・常圧で液体となる唯一の金属元素です。

液体の金属と言えば、映画「ターミネーター2」に登場する殺人アンドロイドT-1000を思い出す方も多いのではないでしょうか。液体金属のロボットは未だ開発されていませんが、水銀は扱いやすい便利な素材として様々なものに利用されてきました。

現在の体温計は電子式が主流ですが、40年前は体温計に水銀が使用されていました。これは水銀の温度によって膨張する性質を利用したものです。現在では使われていませんが、歯の治療の詰め物として水銀と他の金属との合金が使われていたこともあります。

また、水銀には銀と同じ様に殺菌作用があり、消毒薬の原料にもなっていました。この消毒薬はその色から「赤チン」と呼ばれていましたが、今では販売されていません。

それでは、早速水銀2リットルを一気飲みしてみましょう。そこのあなた、コールをお願いします。

まず初めに気になるのが、水銀を口の中に入れたときにどんな味がするのかということです。味覚とは、水溶液に溶けている物質が舌にある味蕾という感覚器官に感知されて知覚されるものです。そして、単体の水銀はほとんど水に溶けないため、あまり味はしません。

水銀を口の中にいっぱいに含むとどんな感じでしょうか?大人の口の中の容量は約100cc、水銀の密度は1ccあたり13.6グラムなので口の中いっぱいに水銀を含むと1.36キログラムになります。かなり重そうですね。

ごくごく飲んでいきましょう。最初の1口が胃に届くまでの所要時間は10秒です。2リットル全て飲み終えるには数分かかるでしょう。

飲んだ直後は、当然ながら体重が増加します。2リットルの水銀の重さは27.2キログラム。体重60キログラムの人が2リットルの水銀を飲み終えると体重は87.2kgとなり、1.4倍の体重になってしまいます。

水銀の重さによって胃に異変が起き始めます。胃はかなり丈夫な筋肉で出来た臓器ですが、これだけの重いものをいれると無事ではいられません。

まず、胃の粘膜が水銀の重さで押しのけられます。粘膜の下部組織に胃液が触れると胃潰瘍ができ、血管が破れます。最期には胃壁に穴が開いて、内容物が外にでてしまいます。これを「穿孔(せんこう)」といいます。

胃液にはたんぱく質を消化する消化酵素「ペプシン」と強い塩酸が含まれています。胃袋そのものが消化されないのは胃壁が粘膜に守られているためです。

しかし、粘膜がのけられてしまうと胃壁が溶け出してしまうのです。胃の内部にあった水銀や胃液が体内に漏れ出ると、激痛が走ります。胃の外側の内蔵は粘液に守られていないため、漏れだした胃液によってダメージを受けます。

また、異物が直接神経を刺激するので激痛となるでしょう。歩くことができないほどの痛みが長時間継続します。この激痛を放置するとショック死か腹膜炎による死が待っています。

また、胃に穴が空く前に、飲み過ぎや食中毒の症状として、吐き気が起こるかも知れません。しかし、残念なことに水銀は重量があるため、咽(のど)が胃の位置より下になるような姿勢でないとうまく吐き出せません。えずいてもえずいても、水銀はでてきません。

胃穿孔も嘔吐も起こらなかった場合どうなるでしょうか?水銀は胃液の中に含まれる塩酸にも溶けず、たんぱく質でもないので消化酵素では消化されません。3時間後、胃の中の水銀は蠕動(ぜんどう)運動によってほとんど全て腸に送られます。

腸でも穿孔が起こる可能性があります。その結果は胃穿孔と同様にショック死か腹膜炎による死。腸穿孔が起こらなかった場合、25〜30時間後、肛門より「銀色のうんこ」として排出されることでしょう。

わずかですが、胃や腸から水銀が吸収されることが考えられます。また、腸内の細菌によって酸化水銀や有機水銀が生成されて、それが吸収される可能性があります。

金属水銀を飲んだ場合の吸収率は7%程度と言われています。胃腸から吸収された水銀は、静脈を通って心臓に到達し、そこからまた全身に流れることになります。

水銀が脳や中枢神経に入った場合、頭痛や知覚障害、手足のしびれなどの症状が現れます。また、胃や腸に溜まっている水銀が蒸発し、水銀蒸気がゲップやおならに含まれる可能性があります。

水銀蒸気を吸引すると、肺に沈着し、呼吸困難や肺炎を誘発することが考えられます。なお、不運なことに水銀蒸気の肺での吸収率は80%と非常に高くなります。

また、肺から静脈に入った水銀は脳や中枢神経を侵すことになります。その他の症状としては、皮膚の浮腫(できもの)や発疹、視力減退、発熱、悪寒、肝臓や腎臓の機能低下などが考えられます。

取り込まれる水銀は少しずつなので、すぐに症状がでる可能性は少ないですものの、慢性中毒として上記の症状が現れることになります。

このように、飲む前から分かりきっていたことではありますが、水銀を飲んで無事にいられるわけがありません。しかし、過去に実際に水銀を飲んでいた事例が存在しています。

中国最初の皇帝である秦の始皇帝は、不老不死の妙薬として水銀を飲み、その結果逆に早死にしてしまったという伝承があります。始皇帝が飲んだのは、水銀が硫黄と結びついた硫化水銀という物質だと言われています。

硫化水銀は加熱していくと、赤い固体⇒銀色の液体⇒赤い固体⇒銀色の液体と循環するように変化します。この性質が不老不死と結びつけて考えられたのでしょう。

西洋でも、16世紀から19世紀初頭まで水銀が万能薬として服用されてきました。ナポレオンやエドガー・アラン・ポーそしてリンカーンも水銀を服用していたといわれています。使用されていたのは水銀の塩化物「カロメル」です。

カロメルは強力な下剤としての作用があり、口からも大量の唾液が分泌されました。当時の人々はそれが体から毒素を流し出してくれると考え、体に良いものであると判断していたというのです。

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